食事が終わると兄が神妙な顔で話始めた。
「宇宙へ行きたいと思うか?」
「いいえ」
アーチャは即答した。
「兄さんはいきたいと思うんですか?」
「微妙だな」
と答えると兄は目を伏せた。きっと、行きたいのだろうと思う。
この地を離れて海を見たいと言っている兄だ。
この地に住む人間の殆どが、海の存在を知ってはいてもそれは物語の中での事。
実際に、自分で
この目で、見ようとは思っていない。
それでも、僕は、良いと思っている。
人々が、この町が平和であるのなら。
「もうすぐ、2月29日だな」
「ええ」
「その日に、この家を出てみようと思う。それまでに、手配を頼めるか?」
「はい」
「ありがとう」
「いいえ。こちらこそ。こんなことでしか、兄さんの役に立てなくて」
「一緒にくるか?」
「遠慮しておきます。僕では、きっと、兄さんの足手まといになりますから」
「本音をいいたまえ。ここは、もしかしたら、唯一のお前の本音を言える場所でもあるのだから。
お前は、気を使い過ぎる。
自分をさらけ出せる場所が必要だな。あては、あるのか?
まさか、あの爺さんの前とは、言わないよな?
あの爺さんもお前のことは、見抜いているから、寺院に引きずりこまないのであろう?」
「はい。確かに。兄さんの仰る通りです。あの方は、僕には、町へ出ることを進めていて、時々、困るほどです。僕には、僧侶は、向いてないとさえ仰います」
「そうか・・・。だから、こそ、俺は、あの爺さんにアーチャお前を預けてもきたのだよ?」
兄の優しいまなざしが、アーチャを包んだ。
「それにしても、この山菜は美味しいな」
「はい。美味しいですね」
「厳しい季節がもうすぐ終わる。今年は、うるう年だ。一年は、365日きっかりではないということだな。人生と同じで何事も割り切れぬ。けれども、春夏秋冬が、少なからず来て、一年を感じる。一日にとっては、もっと、きっかりだ。24時間。そして、1時間は、60分、1分は、60秒。一秒の長さを知りたい時、俺は、自分の胸に手を置くのだけれど。それで、生きている実感が湧くとまでは、思えないんだよ。だから、旅に出ようと思う。
何かが、見つかるような気がして」
「とにかく、お身体だけには、気をつけてください」
つづく
過去作は、こちらに遺します。https://note.com/ofjt27