不穏な世界に光を見出す

「戦争反対!」とただ、叫んでいても
戦争が無くなることが、無いのならば。

軽い
退廃的な世界
それでも、人は、生きる。

18禁かもしれません。
戦争自体が、そういうものだから、本来。

 

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哀歌

 

 

轟音が俺たちのベッドを被う


「明日戦争へ行くよ」

「そう」

 

「消えたの」
「何が?」
「わたし達が」

 


翌朝

俺は女のその薄暗い部屋を朝日と共に出て行く

女は去り際に、俺に抱きつき、俺の耳に噛みついた

手で耳を押さえる。ヌメっとして血が滲んでいた

俺は指先についたその血を舐める

 

甘い味がした

 

「いつかわたしを犯してね」

女はそう言いながら、右手を振る

そうだ

これから俺は人を殺すためにだけ生きればいいんだ

そう気づいたとき、少しだけ楽になった

 

もう、誰も救わなくていい

 

自分のしたいこと、他を排除することのみを目的に生きればいいんだ

そう思っていた矢先
殺した人間を4人数えた所で捕虜になった
街中を後ろ手錠で歩く
憐れんだ目、蔑んだ目。子供も大人も。老人も若者も
途中、隊列を組んで歩いている俺たちに向かって、シャッターを押す 白人男性がいた

ナイフを振り上げてかかってくる黄人男性もいた


「バシッ!」
その度に人が人を痛めつけるその独特な音が周囲に響き渡る

言葉の通じない異国の兵士は果たしていつまで俺たちを守ってくれるのだろうか

 

俺たちは「カネ」だった
その白人男性が持ったネガが俺たちの命だった
「日本人」その頃、世界中でカネと同化していたに違わない
俺たちはカネになる
そう、全ての日本人が浮かれていた頃

 

 

「言葉が通じれば」

「言葉さえ通じれば」

「奴らは絶対に俺たちを殺しはしないのに」

 

 

その時
空から紙飛行機が舞い降りてきた

俺は目を盗んでしゃがみ込み、小さな飛行機を拾い上げる

子供が掛けよって来た

 

「バシッ!」
先頭の兵隊が子供を容赦なく痛めつける

 

俺はその紙飛行機をただ、力も無く地面に落とす

後ろ手錠で行進しながら

 

 

今の俺に君は救えない

 

今の君に俺が救えないように

 

表通りの一角を曲がり
裏通りを兵士たちは入っていく
地下室へ続く階段を下り、ドアを開ける
途中、露天商が腐ったリンゴを投げつけてきた

気持ちよかった
冷たくて
ヒンヤリとしていた
俺は喉が乾いていたんだ
リンゴのその感触に触れたとき、俺はそのことを思い出していた

 

 

地下へ続く階段を下ろされ
ドアを開けるとベルが鳴った
店内の客が一斉に振り向く
俺たちはそれらの異様な目の中を通り過ぎ、奥の部屋へと通された
そこは、密室
地下であるその牢に窓は一見して見当たらなかった

 

初めて死の恐怖を味わう

 

「生きたい」と初めて思った

最後に過ごしたあの女が待つあの薄汚い部屋でも

 


天井から水滴が落ち
雨音が窓を叩く

俺たちは後ろ手錠を外され
仲間うち数人がポーカーをしている別室に通された

そして
ロシアンルーレットが始まる

銃声が響き、死体がひとつ放りこまれる

 

 

「生きたい」

 

俺は益々その思いを強くする

そのためにはここを抜け出さなければ

それはその場に居るみんなのひとつの願いでもあった

俺たちは小さなその天窓を見つけると着ていた衣類を 脱ぎ始めた

 

誰が指示するわけでもなく

 

 

そして、俺は脱出した

俺について後ろを走ってきた人間は他に二人いた

この先、異国の地で俺たちが生き延びることは極めて困難だということは 道をゆく俺たちを見つめる数々の「目」を受けながら感じていた

俺たちはどうすればいいだろう
政府の助けを待ちながら
岩陰にでも隠れればいいのだろうか
一か八か、あの人家に助けを求めるか

 

 

雨はまだ降り止まない

 

 

「また、来たの」

 

女がそう

迷惑そうに言う声が聞こえる

俺はそのまどろみの中、永久に目覚めることない眠りに入る

 

「また、来たの・・・そう・・・、おかえり」

 

名も知らぬその女は、4人という人間を殺して帰ってきた俺を暖かく 迎えてくれた


「待ってたわ」

人の声に包まれ

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