その日は、翌日に来た。
「おはよう。アーチャ」
兄は、テーブルの上に置いてある水差しから、水を飲んだ。
「ありがとう。美味しいよ。汲みたてだね」
「はい」
「今日は、何曜日だい?」
「火曜日です」
「そうか。。。。随分、寝たもんだ。すっかり、元気になった。朝の光で自然に目覚めるとは、なんと気持ちの良いことだろう。ここ数年、こんな日は、無かった。」
「ごめんね。兄さん」
「どうした?」
「いいえ。僕はすっかり兄さんに甘えて。全てを兄さんに任せてばかりで」
「良いんだよ。これで。
アーチャは、自由に生きてるか?」
「はい。おかげ様で」
「ならば、良い。」
兄はそう言うと部屋を後にした。
僕は、鳥の卵を取りに家を出る。
裏山には、山菜やきのこが、食べきれないほど生えていた。
小さな小川には、今日も魚が泳いでいる。
朝食は、パンとゆで卵とオリーブオイルで炒めた青物ときのこを並べた。
今日は、魚を捕る気には、なれなかった。
「兄さんが元気そうで良かった」
アーチャは、木々の間から見える青空から降り注ぐ澄み渡った白い光に感謝するのであった。
朝食を食べながら、兄は「美味しい」を繰り返した。
そして
「アーチャは、海を見たことあるか?」と言った。
「ありません。。。まだ」
「海は、青いと話には聞くが、本当かこの目で見てみたいんだ。いいかな?」
「もちろんです!!」
僕は、兄が失われてしまった欲求を取り戻してくれたことが、何よりうれしかった。
「海は、青いんですか?」
「ああ。晴れている日は、青いそうだ。しかし、雨の日は、どんよりとした灰色をしているそうだ。それもそれで、見て見たい。風の吹き具合によっても、姿形を変えて、見ていて飽きないと、ディーマが言ってた。彼は、冒険家だからな。生きてりゃいいが」
そう言うと兄さんは笑った。
「君はどうするね?」
「僕は寺院に帰ります」
「そうか。ならば、この家の管理は、グルシャコフに頼むか」
「そうですね。彼なら、歴史を含め家の隅々まで知っていますから」
兄は、ゆで卵をほおばっていた。
「父のことも、もしかしたら」
と僕は言葉をそれだけに留めた。
つづく
過去作は、こちらに遺します。https://note.com/ofjt27